■ 胸部の解剖
胸部浅層 |
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上肢の解剖を参照 |
胸部深層, 肺 |
(1) 前胸壁を取り外す。まず前鋸筋、外腹斜筋を起始部で切断する。次に各肋間のできるだけ外側で肋間筋と胸内筋膜を二横指ほどの幅で取り去り、胸内筋膜に密着する壁側胸膜を残しながら肋骨を持ち上げて切断する。前胸壁を前下方に引き起こしながら第2~3肋間で内胸動静脈を切断、心膜の前面で胸内筋膜が肥厚してできる胸骨心膜靱帯を切断、さらに剣状突起・肋骨弓の直下で横隔膜、腹直筋、腹横筋を切断し、これを完全に取り外す |
(2) 壁側胸膜を縦に切開して胸膜腔を開放する。肺を原位置で観察した後、肺根と肺間膜を切断して肺を取り出す |
(3) 取り出した肺で肺葉、肺門、気管支などを観察する |
縦隔, 心臓 |
(1) 縦隔を観察する。胸腺の遺残、心膜横隔動静脈を伴って下る横隔神経、左右の反回神経(迷走神経の枝)などを確認後、大血管を切断して心臓を取り出す。奇静脈や胸管などいくつかの構造物は心臓を取り出した後に剖出する |
(2) 心臓は心臓壁の血管を同定した後、実習書の記述に従ってメスを入れ内部を観察する |
演習問題 ①―内胸動脈 Internal thoracic artery は鎖骨下動脈の枝である。狭心症や心筋梗塞に対する冠状動脈のバイパス手術に用いられる。 ①―気管 Trachea の後壁は軟骨を欠き、膜性壁と呼ばれる平滑筋の束が食道に接している。吸気時にも形状を維持して気道を保つC型の気管軟骨に対して、膜性壁は内腔の広さを調節するのに役立っている。 右鎖骨下動脈 Right subclavian artery は腕頭動脈から、左鎖骨下動脈 Left subclavian artery は大動脈弓から起こり、椎骨動脈・内胸動脈・甲状頚動脈・肋頚動脈を出して腋窩動脈へと移行する(各枝の頭文字から「ツ・ナ・コ・ロッケ」)。総頚動脈は、右は腕頭動脈から、左は大動脈弓から起こる。 ①―洞房結節 Sinoatrial node (SA node) は右心房内面の上大静脈の開口部付近にある。
問1. 胸壁に見られる構造について正しいのはどれか。
① 内胸動脈は胸大動脈から起こる
② 肋間動脈は内肋間筋の浅層を横走する
③ 鎖骨と第1肋骨の間を第1肋間隙と呼ぶ
④ 肋骨下縁は胸膜腔穿刺の安全部位である
⑤ 乳腺の腋窩尾部は乳がんの好発部位である
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②―肋間動脈 Intercostal arteries は内肋間筋の深層を走行する。
③―第1肋間隙とは第1肋骨と第2肋骨の間を指す。
④―肋骨下縁は肋骨溝を走行する肋間動静脈・神経に近いため、胸膜腔穿刺は肋骨上縁で行われる。ただし中腋窩線より前方では肋間動脈の上下に分かれた枝(前方で内胸動脈の前肋間枝と吻合)が肋骨の上縁と下縁に沿って走るため、これを避けた肋間隙の上下中央が最も安全となる。胸水を採取する目的で胸膜腔穿刺を行う場合、第7肋間でこれを行う(これより下位では横隔膜を貫く恐れがある)。
⑤―乳がんは乳腺 Mammary gland の外上方への延長部である腋窩尾部や外側上部で発生頻度が高い。
問2. 気管・肺について正しいのはどれか。
① 気管の後壁と食道は軟骨によって隔てられている
② 気管は胸骨角の高さで分岐する
③ 肺門において、気管支は肺動脈より前にある
④ 肺の上端は鎖骨の下縁の高さにある
⑤ 水平裂は両肺に見られる
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②―気管は前方で胸骨角 Sternal angle、後方では第5胸椎の高さで分岐する。右気管支は左よりも太く垂直に近い角度で分岐するため、誤飲したものは右気管支に入りやすい。
③―気管支 Bronchi は原則的に肺根の後部にあって、左右2本づつある肺静脈 Pulmonary vein (PV) は前下部、肺動脈 Pulmonary artery (PA) は右肺では気管支の前下方、左肺では前上方にある。気管支動静脈は気管支の後方にある。
④―肺尖は通常、鎖骨の約2横指上方に達している。
⑤―水平裂は右肺にのみ見られ、これを上葉と中葉に分け、さらに斜裂が下葉と上葉・中葉を隔てる。左肺には中葉がなく、斜裂が上葉・下葉を分ける。
問3. 鎖骨下動脈の枝でないのはどれか。
① 総頚動脈
② 椎骨動脈
③ 内胸動脈
④ 肋頚動脈
⑤ 甲状頚動脈
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問4. 心臓・心膜について正しいのはどれか。
① 洞房結節は左心房にある
② 心膜腔には漿液が含まれる
③ 心室中隔には卵円窩が見られる
④ 線維性心膜は心外膜とも呼ばれる
⑤ 前室間枝は右冠状動脈の枝である
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②―心膜腔は心嚢の内部(漿膜性心膜の壁側板と臓側板の間)で、心嚢液と呼ばれる少量の漿液を含む。心嚢液は心臓の拍動による摩擦を和らげるのに役立つが、何らかの病的な理由で心嚢に血液や浸出液が貯留するとこれに包まれる心臓が圧迫され、拡張が妨げられる場合がある(心タンポナーデ)。
③―卵円窩とは胎生期の卵円孔の遺残で、心房中隔にある。
④―心外膜とは心臓表面を覆う漿膜性心膜の臓側板を指す。線維性心膜は漿液性心膜の壁側板の外表面を覆う強い膜状の結合組織で、大血管の外膜に移行する。
⑤ 前室間枝は左冠状動脈の最も太い枝である。左冠状動脈はこの枝と同時に冠状溝を左に回って後面に向かう回旋枝を出す。いずれも右冠状動脈の終枝である後室間枝と吻合するが弱く、あまり機能していない。
■ 胸郭
胸骨 Sternum、左右12対の肋骨 Ribs、12個の胸椎 Thoracic vertebrae は連結して籠状の骨格をなし、これを胸郭 Thorax と呼ぶ。上端は第1胸椎・第1肋骨・胸骨柄の上縁で囲まれる胸郭上口として開放し、第12胸椎・第12肋骨・胸骨弓および胸骨の剣状突起で囲まれる下端の胸郭下口は横隔膜によって塞がれる。
胸骨は胸骨柄 Manubrium of sternum、胸骨体 Body of sternum、剣状突起 Xiphoid process が線維軟骨を介して結合したものである。胸骨柄は左右の上外側部で鎖骨と関節をつくる(胸鎖関節)。その左右の関節の間の窪み(頚切痕 Jugular notch)は体表から触れることができる。胸骨柄と胸骨体の結合部前面の突出(胸骨角 Sternal angle)もまた体表から触れることができ、その高さは第2肋骨の胸骨との連結部と一致する。
肋骨は12対のうち上位7対は前方でそれぞれ肋軟骨を介して胸骨と連結するが(真肋)、それより下位の肋骨は胸骨と関節をつくらない(仮肋)。さらに仮肋のうち第8~10肋骨は上位の肋骨の肋軟骨と連結するが、第11および12肋骨はどこにも連結しない(浮遊肋)。
典型的な胸椎は、上下ふたつの椎体の間で肋骨と関節をつくる。また横突起は同位の肋骨と関節をつくりこれを支える。
■ 胸壁の筋
胸壁の筋は肋間隙を埋めて胸壁を補強し、また肋骨と胸骨を動かし胸式呼吸を助ける。いずれも肋間神経 Intercostal nerve [T1-11] の支配を受ける。それぞれの起始・停止と作用を下の表に示す。
筋の名称 | 起始・停止 | 作用 |
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外肋間筋 | 起始: 上位の肋骨下縁 停止: 下位の肋骨上面 |
吸気(肋骨の挙上), 肋間隙の支持 |
内肋間筋 | 起始: 上位の肋骨の肋骨溝外側縁 停止: 下位の肋骨上面(外肋間筋より深部) |
呼気(肋骨の下制), 肋間隙の支持 |
最内肋間筋 | 起始: 上位の肋骨の肋骨溝内側縁 停止: 下位の肋骨上内面 |
呼気(内肋間筋と協調して働く) |
肋下筋 | 起始: 上位の肋骨内面 停止: 2~3下位の肋骨内面 |
(呼気か) |
胸横筋 | 起始: 第2~6肋骨下縁・内面 停止: 胸骨体(深部下方), 剣状突起, 第3~7肋軟骨 |
肋軟骨の下制 |
■ 胸壁の血管・神経
工事中
■ 胸腔と胸膜
胸腔 Thoracic cavity は胸壁の内部で、胸郭上行から胸郭下行・横隔膜に至るまでの空洞を指す。胸壁の内面は壁側胸膜と呼ばれる漿膜に覆われ、これが肺表面に移行して肺胸膜となる。少量の漿液が壁側胸膜と肺胸膜の間隙(胸膜腔)を満たし、呼吸に伴う肺と胸壁の摩擦を和らげている。
■ 横隔膜
横隔膜 Diaphragm は胸腔と腹腔を隔てる膜状の横紋筋で、胸郭下口周縁から起こりドーム状に膨らんで腱中心に収束する。収縮するとドームの傾斜が緩やかになり、胸腔の容積を拡大する(腹式呼吸)。大動脈裂孔を大動脈・奇静脈・胸管、食道裂孔を食道・迷走神経、大静脈孔を下大静脈がそれぞれ通る。横隔神経 Phrenic nerve [C3-5] の一部の枝もまた横隔膜を貫通し、腹腔面からこれを支配する。
■ 縦隔
胸腔の中央で左右の肺の間を埋める隔壁部を縦隔 Mediastinum と呼ぶ。縦隔は心臓より上部の上縦隔と下部の下縦隔に分けられ、下縦隔はさらに胸骨から心膜前面までを前縦隔、心臓を容れる中縦隔、心膜後面から脊柱までを後縦隔として区分される。各部の主な内容物を下の表に示す。
上縦隔の内容物 |
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胸腺上部, 気管, 食道, 大動脈弓, 上大静脈, 腕頭静脈, 奇静脈, 胸管, リンパ節, 横隔神経, 迷走神経, 交感神経幹 |
下縦隔の内容物 |
前縦隔 胸腺下部, リンパ節 |
中縦隔 心臓, 心膜, 大血管の根部, 横隔神経 |
後縦隔 気管支, 食道, 胸大動脈, 奇静脈, 半奇静脈, 胸管, リンパ節, 迷走神経, 交感神経幹 |
■ 食道
工事中
■ 気管・気管支
工事中
■ 肺
工事中
■ 心臓
工事中