■ 背部の解剖

背部の筋群
(1) 皮下に脊髄神経後枝からなる皮神経を見ながら浅背筋膜を剥離し、浅背筋群を同定する。僧帽筋と広背筋を切断して両側に避け、その下層に見える肩甲挙筋と菱形筋、さらに肩甲下筋を切断して肩甲骨を取り外す
(2) 上後鋸筋と下後鋸筋を切断して翻し、深部の固有背筋群を同定しながら取り除いていく
後頭部, 脊柱
(1) 後頭下筋群を剖出して後頭下三角(大後頭直筋, 上頭斜筋, 下頭斜筋)を確認する。この領域で椎骨動脈と後頭下神経(C1)、また下頭斜筋の下縁から出て上行する大後頭神経(C2)などを剖出
(2) 第3頚椎より下位の椎弓板を清掃して露出させ、ノミで割って取り去り脊柱管を開く
(3) 硬膜を正中で縦に切り開き、脊髄を原位置で観察(後根神経節も同定する)。脊髄を取り出し頚膨大、胸髄、腰膨大でそれぞれ切断して断面を観察する


演習問題

問1. 脊髄神経後枝の支配を受けるのはどれか。2つ選べ。

 ① 腸肋筋
 ② 僧帽筋
 ③ 頭板状筋
 ④ 大菱形筋
 ⑤ 上後鋸筋

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  • ①, ③
  • 脊髄神経後枝は前枝より細く、背部の皮膚と固有背筋に分布する。選択肢のうち固有背筋は頭板状筋と、脊柱起立筋の一種である腸肋筋となる。僧帽筋や菱形筋は上肢の運動に関わる浅背筋。後鋸筋は呼吸運動を助ける中間層の筋だが、これも浅背筋に含まれる。



    問2. 後頭下三角の内容物はどれか。2つ選べ。

     ① 後頭動脈
     ② 椎骨動脈
     ③ 後頭下神経
     ④ 大後頭神経
     ⑤ 第三後頭神経

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  • ②, ③
  • 後頭下三角とは大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋に囲まれる領域を指す。この部では三角を形成する筋群を支配する後頭下神経(C1後枝)と、深層を走行する椎骨動脈を見つけることができる。またこの部の浅層を下頭斜筋の下縁から出た太い大後頭神経(C2後枝)が上行し、後頭部の皮下に抜けていく。



    問3. 脊髄の運動ニューロンが分布するのはどこか。

     ① Central canal
     ② Dorsal horn
     ③ Dorsal root ganglion
     ④ Ventral horn
     ⑤ White substance

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  • 脊髄の運動ニューロンは前角 Ventral horn に分布する。このニューロンが障害されると筋への入力がなくなり弛緩性麻痺となるが、これを制御する大脳皮質の上位運動ニューロンが障害されると逆に筋の緊張が亢進し痙性麻痺となる。なお後根神経節 Dorsal root ganglion には偽単極性の一次求心性ニューロンが分布し、末梢に樹状突起、後角 Dorsal horn の二次求心性ニューロンに軸索を送る。





    脊柱

    ■ 脊柱

     脊柱 Vertebral column はおよそ33個の椎骨 Vertebrae からなる。椎骨は7個の頚椎 Cervical vertebrae、12個の胸椎 Thoracic vertebrae、5個の腰椎 Lumber vertebrae仙骨 Sacrum(5個の仙椎が癒合したもの)、尾骨 Coccyx(3, 4個の尾椎が癒合したもの)に分けられる。また脊柱は全体として前後にS字状にカーブする。初期胚の体節は後方に弯曲するのみだが(一次弯曲)、出生後、筋のに伴い頚部が前弯を呈し首が据わり、やがて腰部の前弯も顕著になると直立二足歩行を可能にする(二次弯曲)。

     典型的な椎骨は椎体 Vertebral body椎弓 Vertebral arch からなる。上下の椎骨の椎体は円板状の線維軟骨(椎間板 Intervertebral disc)を介して連結する。椎弓は筋や靭帯が付着する正中後部の棘突起 Spinous process や左右の横突起 Transverse process、横突起の付け根で上下の椎骨と関節をつくる上・下関節突起 Superior / Inferior articular process といった突起物をもつ。椎体と椎弓に囲まれた孔(椎孔 Vertebral foramen)は連続して脊柱管 Vertebral canal となり、これを脊髄が通る。また上下の椎骨の間にできた左右の孔(椎間孔 Intervertebral foramen)には脊髄神経や血管が通る。いくつかの椎骨について、特徴を下の表に示す。


    骨の名称 特徴
    頚椎 横突起に横突孔 Foramen transversarium をもち、第1~6頚椎の横突孔に椎骨動脈を通す。第1頚椎は椎体がなく環状をなすことから環椎 atlas、第2頚椎は椎体に歯のような突起(歯突起 Dens)があって環椎の椎弓後面で車軸型の関節をつくることから軸椎 axis と呼ばれる。また隆椎 Vertebral prominens とも呼ばれる第7頚椎は、頚を屈曲した際にその棘突起が体表面から特に際立って認められる
    胸椎 椎体の左右に通常はいずれも半円形の、同レベルの肋骨との関節面(上肋骨窩)と下位肋骨との関節面(下肋骨窩)をもつ(ただし第1肋骨の上肋骨窩は円形の単独のもの、第10胸椎は上肋骨窩のみ、第11・12肋骨はそれぞれ円形で単独の肋骨窩をもつ)。また第1~10肋骨の横突起は肋骨結節とも関節をなす(横突肋骨窩
    腰椎 頚椎、胸椎よりも大きい。その横突起は肋骨に相当する要素を含み、腰椎ではこれを肋骨突起と呼ぶ
    仙骨 5個の仙椎が癒合したもの。左右で寛骨と関節をつくる。左右4対の孔から脊髄神経S1~S4の前枝が前面へ、後枝が後面へ出る
    尾骨 椎弓と脊柱管がない痕跡的な骨。3, 4個の尾椎が癒合したもの




    背部の筋

    ■ 後頭下筋

     後頭下筋は上位頚椎と後頭骨(頭蓋底)に付着し、頭部を動かす。いずれも後頭下神経(C1後枝)の支配を受ける。大後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋で囲まれる後頭下三角 Suboccipital triangle は後頭下神経を通すほか、浅層に下頭斜筋の下縁から出て上行する大後頭神経(C2後枝)、深層に椎骨動脈を認める。小後頭直筋を含めた後頭下筋群の起始・停止と作用を下の表に示す。


    筋の名称 起始・停止 作用
    大後頭直筋 起始: 軸椎の棘突起

    停止: 後頭骨外側部(下項線下部)
    頭部の伸展・回転
    小後頭直筋 起始: 環椎の後結節

    停止: 後頭骨内側部(下項線下部)
    頭部の伸展
    上頭斜筋 起始: 環椎の横突起

    停止: 後頭骨(上項線と下項線の間)
    頭部の伸展・同側への屈曲
    下頭斜筋 起始: 軸椎の棘突起

    停止: 環椎の横突起
    頭部の回転




    ■ 浅背筋

     背部浅層にあって上肢の運動に関わる筋群(僧帽筋、広背筋、大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋)、中間層にあって呼吸を助ける筋群(上後鋸筋、下後鋸筋)を併せて浅背筋 Superficial back muscles と呼ぶ。浅背筋は脊髄神経前枝の支配を受ける(ただし僧帽筋は副神経[XI]の運動神経支配)。それぞれの起始・停止、神経支配、作用を下の表に示す。


    浅層の筋群

    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    僧帽筋 起始: 後頭骨上項線・外後頭隆起, 項靭帯, 第7頚椎~第12胸椎の棘突起

    停止: 鎖骨(外側部1/3), 肩甲骨肩峰・肩甲棘
    運動―副神経 [XI], 固有感覚―C3, 4 肩甲骨の挙上(上部)・内転(中間部)・下制(下部)
    広背筋 起始: 第6胸椎~第5腰椎の棘突起, 仙骨, 腸骨稜, 第10~12肋骨

    停止: 上腕骨結節間溝
    胸背神経 [C6-8] 上腕の伸展・内転・内旋
    肩甲挙筋 起始: 第1~4頚椎の横突起

    停止: 肩甲骨内側縁
    肩甲背神経 [C4, 5] 肩甲骨の挙上
    小菱形筋 起始: 第6・7頚椎の棘突起

    停止: 肩甲骨内側縁
    肩甲背神経 [C4, 5] 肩甲骨の内転・挙上
    大菱形筋 起始: 第1~4胸椎の棘突起

    停止: 肩甲骨内側縁
    肩甲背神経 [C4, 5] 肩甲骨の内転・挙上

    中間層の筋群

    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    上後鋸筋 起始: 項靭帯, 第7頚椎~第3胸椎の棘突起・棘上靭帯

    停止: 第2~5肋骨上縁
    上位の胸神経前枝 [T2-5] 第2~5肋骨の挙上
    下後鋸筋 起始: 第11胸椎~第3腰椎の棘突起・棘上靭帯

    停止: 第9~12肋骨下縁
    下位の胸神経前枝 [T9-12] 第9~12肋骨の下制




    ■ 固有背筋

     固有背筋 Muscles of back proper は棘横突筋、脊柱起立筋、横突棘筋、肋骨挙筋、棘間筋、横突間筋といった背部深層の筋群からなり、脊髄神経後枝の支配を受ける。

     棘横突筋は頭板状筋と頚板状筋からなる。頭板状筋は項靭帯および第7頚椎~第4胸椎の棘突起に発し、乳様突起および上項線下部に停止する。頚板状筋は第3~6胸椎の棘突起に発し、第1~3頚椎の横突起に停止する。それぞれ中位・下位の頚神経支配を受け、互いに協調して頚部の伸展頭部の回転を行う。

     脊柱起立筋は最外側の(腰・胸・頚)腸肋筋、中間部の(胸・頚・頭)最長筋、最内側の(胸・頚・頭)棘筋からなる。腸肋筋は共通の起始腱に発し、肋骨角と下位頚椎の横突起に停止する。最長筋は共通の起始腱から上行して頭蓋底に至る。棘筋は上下の椎骨の棘突起を連結し、頚部では欠損することが多い。これらは協調して脊柱と頭部の伸展を行い、また脊柱の屈曲・側屈にも関わる。

     横突棘筋は脊柱起立筋の深部にあって、浅層の(胸・頚・頭)半棘筋、中間層の多裂筋、深層の回旋筋からなる。概して横突起に発し、上位の棘突起に停止する。脊柱の伸展を行い、頭半棘筋は頭部の伸展に関わる。

     肋骨挙筋、棘間筋、横突間筋は分節状に分布する。肋骨挙筋は第7頚椎~第11胸椎の横突起から外下方に走行して下位の肋骨角に至り、肋骨を挙上する。棘間筋と横突間筋はそれぞれ上下の棘突起間・横突起間を繋ぎ、上下の椎骨を固定する





    脊髄

    ■ 脊髄

     中枢神経系の構成要素である脊髄 Spinal cord は脊柱管の中を通るひも状の器官で、大後頭孔の高さで延髄から移行して始まる。その径は一様でなく、上肢(頚膨大 Cervical enlargement)と下肢(腰膨大 Lumbosacral enlargement)を支配する脊髄神経が出入りする高さで特に太い。下端は第1・2腰椎の高さにあり、円錐状に終わる(脊髄円錐)。脊髄円錐の先端からは終糸と呼ばれる結合組織が下方へ伸び、その周囲は下位の椎間孔へ出る脊髄神経の束(馬尾)が走行する。

     脊髄を水平断すると神経線維が走行する周辺部の白質 White substance と、ニューロンの細胞体が分布する中心部の灰白質 Gray substance が観察される。灰白質はH型を呈し、感覚性のニューロンが分布する背側の後角 Dorsal horn と、運動性のニューロンが分布する腹側の前角 Ventral horn がそれぞれ左右対をなす。灰白質の中心には神経管の遺残で髄液に満たされた中心管 Central canal と呼ばれる腔があり、吻側で脳室につながる。

     脊髄は脳とともに全体を髄膜に覆われ、脳脊髄液中に浮遊する。髄膜および脳脊髄液については頭頚部>髄膜と脳脊髄液に示した。





    ■ 脊髄神経

     脊髄から出る末梢神経は脊髄神経 Spinal nerves と呼ばれ、8対の頚神経 Cervical nerves(C1-8)、12対の胸神経 Thoracic nerves(T1-12)、5対の腰神経 Lumber nerves(L1-5)、5対の仙骨神経 Sacral nerves(S1-5)、および1対の尾骨神経 Coccygeal nerve(Co)からなる。これらはそれぞれ脊髄背側から出る求心性線維の束(後根)と、腹側から出る遠心性線維の束(前根)が合流したものとして椎間孔から出る。後根は遠位に神経節(後根神経節 Dorsal root ganglion)を有し、ここには脊髄後角に投射する軸索と末梢の感覚器を支配する樹状突起をもつ偽単極性ニューロンの細胞体が分布する。

     C1が後頭骨と環椎の間から出て以降、下位の脊髄神経は順にひとつ下位の椎間孔から出る(第8頚椎は存在しないためC8は第7頚椎と第1胸椎の間の椎間孔から出る)。椎間孔を出た脊髄神経は固有背筋やその浅層の皮膚を支配する後枝と、その他の大部分の筋および皮膚を支配する前枝に分かれる。前枝はいくつかが吻合し、神経叢(頚神経叢―C1-4, 腕神経叢―C5-T1, 腰神経叢―T12-L4, 仙骨神経叢―L4-S4)をなす。