■ 頚部の解剖

頚部浅層
(1) 広頚筋を剥離して頚筋膜浅葉で皮神経と皮静脈を同定。皮神経をたどり神経点を確認する
(2) 外側頚三角(後頚三角)の筋群を同定。また大鎖骨上窩にて腕神経叢と鎖骨下動脈(生体で触知可)を確認する
(3) 顎下三角に見られる構造物(顔面神経の枝、顔面動静脈、顎下腺、顎下腺管など)を剖出。舌骨上筋群を同定し、顎二腹筋と顎舌骨筋を切り開き舌下神経を出す
頚部深層
(1) 頚動脈三角に見られる構造物(内頚静脈, 総頚動脈, 迷走神経, 頚神経ワナなど)を剖出
(2) 舌骨下筋群を同定。これらの深層で反回神経を気管側に残すよう注意しながら甲状腺を取り出し、観察する


演習問題

問1. 頚部浅層で、頚神経叢の枝である複数の皮神経を剖出した。これらが深部に入り込むポイントはどこか。

 ① 僧帽筋の前縁
 ② 胸鎖乳突筋の後縁
 ③ 胸鎖乳突筋の前縁
 ④ 胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間
 ⑤ 鎖骨の下縁

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  • 胸鎖乳突筋 Sternocleidomastoid muscle の表層には同筋の後縁から出た小後頭神経・大耳介神経・頚横神経・鎖骨上神経といった頚神経叢 Cervical plexus の枝が走行し、頚部・後頭部あるいは肩の皮膚に分布する。鎖骨上神経が起始する脊髄分節(C3, 4)からは横隔神経も出ているため、横隔膜への侵害刺激は関連痛として肩の皮膚の痛みを伴わせる場合がある。



    問2. 外側頚三角(後頚三角)の頚筋膜深層で観察できる筋はどれか。2つ選べ。

     ① 顎二腹筋
     ② 肩甲挙筋
     ③ 中斜角筋
     ④ 胸骨舌骨筋
     ⑤ 肩甲舌骨筋の上腹

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  • ②, ③
  • 外側頚三角とは胸鎖乳突筋の後縁・僧帽筋の前縁・鎖骨の三辺で囲まれる領域を指す。頚筋膜を取り除いたこの部の深層には頭板状筋・肩甲挙筋・後斜角筋・中斜角筋・前斜角筋といった筋群が観察される。また中斜角筋と前斜角筋の間からは腕神経叢 Brachial plexus が出て、その浅層を横切る肩甲舌骨筋下腹の下方には鎖骨下動静脈 Subclavian artery / vein が現れる。



    問3. 顎下三角の内容物はどれか。2つ選べ。

     ① 耳下腺
     ② 顎下腺
     ③ 内頚動脈
     ④ 顔面動脈
     ⑤ 迷走神経

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  • ②, ④
  • 顎下三角は顎二腹筋の前腹・後腹と下顎骨の三辺で囲まれた領域で、顎下腺 Submandibular gland や顔面動静脈 Facial artery / vein が分布する。また顎二腹筋の前腹を取り除き、底面をつくる顎舌骨筋を切り開くと深部に舌下神経 Hypoglossal nerve を見つけることができる。



    問4. 外頚動脈の枝でないのはどれか。

     ① 眼動脈
     ② 舌動脈
     ③ 顎動脈
     ④ 顔面動脈
     ⑤ 上甲状腺動脈

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  • 外頚動脈 External carotid artery は前枝の上甲状腺動脈・舌動脈・顔面動脈、内側枝の上行咽頭動脈、後枝の後頭動脈・後耳介動脈、そして終枝となる顎動脈・浅側頭動脈の計8本の枝をもつ。眼動脈は内頚動脈 Internal carotid artery の枝である。





    ■ 頭部の解剖

    顔面浅層
    (1) 表情筋を同定し、それらの下層で内・外頚動脈および三叉神経の枝を剖出する。眼窩縁には2つの切痕または孔を認めるが、内側の前頭切痕からは滑車上動脈(<眼動脈<内頚動脈)と眼窩上神経(<前頭神経<眼神経)内側枝、外側の眼窩上孔からは眼窩上動脈(<眼動脈)と眼窩上神経外側枝が出る。その他、眼窩下孔から出る眼窩下動脈(<顎動脈<外頸動脈)と眼窩下神経(<上顎神経)、オトガイ孔から出るオトガイ動脈(<顎動脈)とオトガイ神経(<下顎神経)などが見られる
    (2) 頭部を体幹から取り外す。環椎と軸椎の椎弓をノミで割って残っている頚髄を取り除き、環軸関節を観察。後頭骨と環椎の間に切り込みを入れた後、前面では喉頭を頭部側に残すために気管および食道を頚部下端で切って脊柱前面から剥がし離断する。頚部の筋・脈管・神経は切断する際に各々同定しながらできるとよい
    頭蓋, 咽頭・喉頭
    (1) 頭蓋冠を眉弓と外後頭隆起の上の高さでぐるりと切って頭蓋腔を開放する。硬膜を上矢状静脈洞の両側方で切開し、その中央で外側に切り込みを入れて断端を翻した後、大脳鎌を外す。前頭葉を持ち上げながら脳神経と内頚動脈、小脳テントなどを切断して脳を取り出し、容器に保存する。硬膜を剥がし、内頭蓋底を観察する
    (2) 咽頭後壁にて咽頭収縮筋群を見たら正中で切開し、咽頭腔を観察する
    (3) 舌骨の上で喉頭を離断する。舌骨、甲状軟骨、輪状軟骨に着く筋や靱帯を同定しながら取り除き、上・下喉頭神経とそれらをつなぐガレノス交通枝を剖出。傍正中で矢状断し、喉頭腔を観察する
    鼻, 顔面深層, 口腔
    (1) 頭部を傍正中で矢状断して鼻中隔をもつ断片で鼻中隔を、もたない断片で鼻腔の外側面を観察する。鼻腔外側面で上・中・下鼻甲介を取り除くと(上・中鼻道で)副鼻腔や(下鼻道で)鼻涙管の開口部が見られる。また大口蓋管と小口蓋管をノミで開放して大口蓋神経、小口蓋神経、翼口蓋神経節を剖出。さらに翼突管を開放して大錐体神経と深錐体神経を剖出する
    (2) 耳下腺を観察して取り除いた後、咬筋を停止部で切断して頬骨弓の両端をノミで割って取り去る。下顎骨の筋突起を割って側頭筋を翻し、内・外側翼突筋を同定する。下顎枝を下顎角のやや上で切断して下顎管を見た後、顎関節を外して取り去り側頭下窩を観察する
    (3) 口腔で歯と舌、また舌に分布する神経や血管を確認する
    (1) 眼輪筋を取り去り、眼窩周辺の動脈や神経を確認する。上眼瞼で上眼瞼挙筋と上瞼板、その上外側縁で涙腺を剖出。内眼角で涙嚢と鼻涙管を見る
    (2) 眼窩の天井をなす骨をノミで割って開放し、眼窩脂肪体を取り除いて外眼筋群と前頭神経(滑車上神経と眼窩上神経内・外側枝)、眼動脈の枝を同定する。眼窩の後端(上眼窩裂の上端)をノミで割って視野を広げたところで滑車神経、動眼神経、外転神経、および眼神経の枝である鼻毛様体神経や涙腺神経を同定。さらに上眼瞼挙筋と上直筋を筋腹で切断して後方に翻し、視神経の外側で外側直筋の内側面に接するあたりを注意深く清掃して毛様体神経節を見出す(難)
    (3) 眼球を取り出し、解剖する。眼球を赤道面で分割すると後半分では網膜の視神経円板や黄斑が、前半分では水晶体、毛様体、虹彩、角膜などが見られる。総腱輪も観察しておく
    (1) 耳介を観察後、根元で切除する。外耳道の軟骨部を押し広げながらノミで骨を削って鼓膜に達すると、これを剥離して中耳(鼓室)を開放する(耳管咽頭口からゾンデを入れると耳管鼓室口の位置が分かる)。ここでツチ骨とキヌタ骨、またその間を走る鼓索神経を確認し、さらにキヌタ骨の下でアブミ骨を探す。ツチ骨に着く鼓膜張筋、アブミ骨に着くアブミ骨筋を切り、それぞれ取り外して観察する。また茎乳突孔から上方へ骨を削って顔面神経を追求すると鼓索神経を分枝するところを確認できる(難)。
    (2) 内頭蓋底から内耳道の天井を開放するようにノミを入れて骨を削り、蝸牛および半器官を掘り出す。中耳に戻って、アブミ骨輪状靱帯で前庭窓に固定されたアブミ骨を取り出す。




    頭蓋骨

    ■ 頭蓋

     頭蓋 Cranium / Skull を正面から観察すると上部に左右それぞれの眼球を容れる窪み(眼窩 Orbit)、中心部に鼻腔の入口(梨状口 Piriform aperture)を認め、下部を下顎 Submaxillary が占めている。これらを構成する骨は脳が収まる脳頭蓋と顔面をつくる顔面頭蓋に大別され(明確な区別ではない)、一部を除き縫合によって不動性に連結する。全15種23個の頭蓋骨を下の表に示す。左右にあるものは (2) とした。


    骨の名称 特徴
    前頭骨
    Frontal bone
    前頭部にある扁平な骨。前額部を保護し、眼窩の天井をつくる。眼窩上縁の中央よりやや内側に眼窩上孔または―切痕 Supra-orbital foramen / notch をもち、眼神経 [V1] の枝を通す(さらに内側には前頭孔または―切痕を認める)。頭頂骨と冠状縫合 Coronal suture によって連結する
    頭頂骨 (2)
    Parietal bone
    頭頂部にある扁平な骨。左右にあって、矢状縫合 Sagittal suture により互いに連結する。冠状縫合と矢状縫合の交点を ブレグマ Bregma と呼ぶ
    側頭骨 (2)
    Temporal bone
    側頭部にあって、外耳道 External acoustic meatus をもつ扁平な骨。外耳道の開口部(外耳孔)の直下に茎状突起 Styloid process、後下方に乳様突起 Mastoid process を認め、両者の間の茎乳突孔 Stylomastoid foramen から顔面神経 [VII] を出す。同側の頭頂骨と鱗状縫合 Squamous suture をなす
    後頭骨
    Occipital bone
    後頭部にあり、大後頭孔 Foramen magnum を有する扁平な骨。頭頂骨とラムダ縫合 Lambdoid suture によって連結する
    蝶形骨
    Sphenoidal bone
    頭蓋腔の底をつくる蝶のような形の骨で、中央部分(トルコ鞍)の窪み(下垂体窩)に下垂体が収まる。眼窩の外側後方部にて上眼窩裂 Superior orbital fissure から動眼神経 [III]、滑車神経 [IV]、眼神経 [V1]、外転神経 [VI] を通す。また後方上端(蝶形骨角)と頭頂骨、前頭骨、側頭骨とのH型をなす連結部はプテリオン Pterion と呼ばれ、この直下を中硬膜動脈が走行する
    篩骨
    Ethmoidal bone
    眼窩の奥と鼻腔の天井、鼻中隔の一部をつくる。上面にある篩板には無数の小孔が篩(ふるい)のように空き、嗅神経 [I] を通す
    鼻骨 (2)
    Nasal bone
    鼻根部の骨。左右の鼻骨と前頭骨の交点をナジオン nasion と呼ぶ
    涙骨 (2)
    Lacrimal bone
    眼窩の内側壁をつくり、涙嚢が収まる窪み(涙嚢窩)をもつ
    下鼻甲介 (2)
    Inferior nasal concha
    鼻腔外側面に付着する貝殻のような形の骨
    鋤骨
    Vomer
    鼻中隔の一部をつくる、鋤(すき)のような形をした骨
    頬骨 (2)
    Zygomatic bone
    頬の上方に突き出た骨。眼窩の外側下部、眼窩縁の一部をなす
    口蓋骨 (2)
    Palatine bone
    口蓋後部をつくる骨
    上顎骨 (2)
    Maxilla
    眼窩と口腔を隔て、鼻中隔の前下方をつくる。前面に眼窩下孔 Infraorbital foramen をもち、上顎神経 [V2] の枝を通す。底面には歯槽 Dental alveoli と呼ばれる歯根を入れる陥凹部がある
    下顎骨
    Mandible
    下顎をつくる骨で、馬蹄形をなす中央部の下顎体と後端の下顎枝からなる。下顎体は上面に歯槽をもち、前面正中部はやや隆起している(左右から発生した骨が癒合した部位, オトガイ隆起)。また外側面の第2小臼歯下方にはオトガイ孔 Mental foramen と呼ばれる、下顎神経 [V3] と顎動静脈の枝を通す下顎管の開口部を認める。下顎枝は上端前方に側頭筋の停止部となる筋突起 Coronoid process、後方に側頭骨と顎関節 Temporomandibular joint をつくる関節突起 Condylar process をもつ。内面中央に見られる下顎孔 Mandibular foramen は、下顎管を経てオトガイ孔に通じる
    舌骨
    Hyoid bone
    喉頭の上部、舌根の下部にあるU字状の小骨。筋や軟部組織が付着するのみで他のどの骨とも連結しない




    ■ 内頭蓋底

     内頭蓋底には神経や血管を通す多くの孔が空いている。これらを下の表に示す。


    孔の名称 孔を通る構造物
    盲孔 (鼻腔へ向かう)導出静脈
    篩孔(篩板) 嗅神経 [I]
    視神経管 視神経 [II]
    眼動脈
    上眼窩裂 動眼神経 [III], 滑車神経 [IV], 眼神経 [V1], 外転神経 [VI]
    眼静脈
    正円孔 上顎神経 [V2]
    卵円孔 下顎神経 [V3], 小錐体神経
    棘孔 中硬膜動脈
    大錐体神経管裂孔 大錐体神経
    小錐体神経管裂孔 小錐体神経
    大後頭孔 延髄, 副神経(脊髄根)
    椎骨動脈
    内耳孔 顔面神経 [VII](茎乳突孔に出る), 内耳神経 [VIII]
    迷路動脈
    頚静脈孔 舌咽神経 [IX], 迷走神経 [X], 副神経 [XI]
    下錐体静脈洞およびS状静脈洞(内頚静脈へ注ぐ)
    舌下神経管 舌下神経 [XII]
    上行咽頭動脈(硬膜枝)
    顆管 導出静脈




    頭頚部の筋

    ■ 表情筋

     表情筋 Muscles of facial expression は骨または筋膜から起こり皮膚に停止する皮筋の一種で、様々な顔の表情をつくる。それぞれの起始・停止と作用を下の表に示す。なお、これらはすべて顔面神経 [VII] の支配を受ける。


    筋の名称 起始・停止 作用
    眼輪筋 起始: 内側眼瞼靭帯, 前頭骨鼻部, 上顎骨前頭突起

    停止: 外側眼瞼縫線
    瞼を軽く閉じる(眼輪部)・ 強く閉じる(眼窩部)
    皺眉筋 起始: 眉弓内側端

    停止: 眉部中央~内側部
    眉をひそめる
    鼻筋 起始: 上顎骨歯槽隆起

    停止: 鼻背の腱膜, 鼻翼軟骨
    鼻孔を狭める(横部)・広げる(鼻翼部)
    鼻根筋 起始: 鼻骨, 鼻軟骨

    停止: 眉間
    眉間を下げる
    鼻中隔下制筋 起始: 上顎骨(内側切歯の上方)

    停止: 鼻中隔の皮膚
    鼻孔を広げる
    口角下制筋 起始: 下顎骨斜線(犬歯~第一臼歯)

    停止: 口角, 口輪筋
    口角を下げる
    下唇下制筋 起始: 下顎骨斜線前部

    停止: 下唇正中部
    下唇を下げる
    オトガイ筋 起始: 下顎骨(切歯の下方)

    停止: オトガイ部
    下唇を突き出し、オトガイ部に皺を寄せる
    笑筋 起始: 咬筋膜

    停止: 口角
    口角を上げる
    大頬骨筋 起始: 頬骨外側面後部

    停止: 口角
    口角を上げる
    小頬骨筋 起始: 頬骨外側面前部

    停止: 上唇
    上唇を上げる
    上唇挙筋 起始: 上顎骨(眼窩下縁)

    停止: 上唇
    上唇を上げる
    上唇鼻翼挙筋 起始: 上顎骨前頭突起

    停止: 口角
    上唇を上げ、鼻孔を広げる
    口角挙筋 起始: 上顎骨(眼窩下孔より下)

    停止: 口角
    口角を上げる
    口輪筋 起始: 隣接筋群, 上顎骨・下顎骨正中部

    停止: 口裂を取り囲む
    口唇を閉じる・突き出す
    頬筋 起始: 上顎骨・下顎骨後部, 翼突下顎縫線

    停止: 口角と口輪筋に合流する
    頬を歯列につける
    前耳介筋 起始: 側頭筋膜

    停止: 耳輪
    耳介を前上方に引く
    上耳介筋 起始: 帽状腱膜

    停止: 耳介上部
    耳介を引き上げる
    後耳介筋 起始: 側頭骨乳様突起

    停止: 耳介後面
    耳介を後上方に引く
    前頭筋 起始: 帽状腱膜

    停止: 眉部
    眉を上げる
    後頭筋 起始: 後頭骨上項線, 側頭骨乳様突起

    停止: 帽状腱膜
    頭皮を後方に引く
    広頚筋 起始: 下顎下縁

    停止: 胸部上部
    下唇と口角を下げる




    ■ 咀嚼筋

     咀嚼筋 Masticatory muscles は食塊を噛む・すり潰すといった下顎の運動を行う筋群、すなわち咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋からなる。それぞれの起始・停止と作用を下の表に示す。なお、これらはいずれも下顎神経 [V3] の支配を受ける。


    筋の名称 起始・停止 作用
    咬筋 起始: 頬骨弓, 頬骨上顎突起

    停止: 下顎枝外側面
    下顎の挙上
    側頭筋 起始: 側頭窩, 側頭筋膜

    停止: 下顎骨の筋突起
    下顎の挙上・後退
    内側翼突筋 起始: 上顎結節(浅頭), 蝶形骨翼状突起外側板の内側面(深頭), 口蓋骨錐体突起

    停止: 下顎角内側面(翼突筋粗面)
    下顎の挙上・側方移動
    外側翼突筋 起始: 側頭下窩の上壁(上頭), 蝶形骨翼状突起外側板の外側面(下頭)

    停止: 顎関節包, 下顎頚の翼突筋窩
    下顎の前進・側方移動




    ■ 舌骨筋

     舌骨筋 Hyoid muscles前頚三角(胸鎖乳突筋前縁、下顎下縁、前頚部正中線に囲まれた領域)にあって、嚥下開口を行う。舌骨との位置関係に基づいて、舌骨上筋(茎突舌骨筋、顎二腹筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋)と舌骨下筋(胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋、甲状舌骨筋、胸骨甲状筋)に分けられる。それぞれの起始・停止、神経支配、作用を下の表に示す。


    舌骨上筋

    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    茎突舌骨筋 起始: 側頭骨茎状突起

    停止: 舌骨体外側部
    顔面神経 [VII] 嚥下時の舌骨の挙上
    顎二腹筋(前腹) 起始: 下顎骨内側面(二腹筋窩)

    停止: 舌骨体中間腱
    下顎神経 [V3]分枝 下顎の下制, 舌骨の挙上
    顎二腹筋(後腹) 起始: 側頭骨乳様突起内側(乳突切痕)

    停止: 舌骨体中間腱
    顔面神経 [VII] 舌骨の挙上
    顎舌骨筋 起始: 下顎骨顎舌骨筋線

    停止: 舌骨体
    下顎神経 [V3] 分枝 口腔底の支持・挙上, 舌骨の挙上
    オトガイ舌骨筋 起始: 下顎骨内側面(下オトガイ棘)

    停止: 舌骨体前面
    C1前枝の分枝 舌骨の挙上し前方に引く, 下顎骨を後下方に引く

    舌骨下筋

    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    胸骨舌骨筋 起始: 胸鎖関節後面, 胸骨柄

    停止: 舌骨体
    C1-3前枝 嚥下後の舌骨の下制
    肩甲舌骨筋 起始: 肩甲骨上縁(肩甲切痕)

    停止: 舌骨体下縁
    C1-3前枝 舌骨の下制・固定
    甲状舌骨筋 起始: 甲状軟骨板斜線

    停止: 舌骨大角とその近傍
    C1前枝 舌骨の下制, 喉頭の挙上
    胸骨甲状筋 起始: 胸骨柄後面

    停止: 甲状軟骨斜線
    C1-3前枝 喉頭の下制




    ■ 外側頚三角

     外側頚三角は前方を胸鎖乳突筋後縁、後方を僧帽筋前縁、底辺を鎖骨に囲まれた領域で、深層に頭板状筋、肩甲挙筋、後斜角筋、中斜角筋、前斜角筋がある。また下部を肩甲舌骨筋の下腹が胸鎖乳突筋の深部から現れて横切る。それぞれの筋の起始・停止、神経支配、作用を下の表に示す。なお僧帽筋と肩甲挙筋は背部>浅背筋に、頭板状筋は背部>固有背筋に、肩甲舌骨筋は上の舌骨筋に示した。


    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    胸鎖乳突筋 起始: 胸骨柄前面上部(胸骨頭), 鎖骨上面(内側1/3, 鎖骨頭)

    停止: 上項線(外側1/2, 胸骨頭), 乳様突起外側面(鎖骨頭)
    副神経 [XI], C2-4前枝 頭部を同側に傾ける・前方に引く
    後斜角筋 起始: 第4~6頚椎の後結節

    停止: 第2肋骨上面
    C5-7前枝 第2肋骨の挙上
    中斜角筋 起始: 第2~7頚椎の横突起

    停止: 第1肋骨上面
    C3-7前枝 第1肋骨の挙上
    前斜角筋 起始: 第3~6頚椎の前結節

    停止: 第1肋骨前斜角筋結節
    C4-7前枝 第1肋骨の挙上




    ■ 脳の構造

      Brain は中枢神経系を構成する器官のひとつで、大脳 Cerebrum間脳 Diencephalon小脳 Cerebellum脳幹 Brainstem に分けられる。

    大脳
     大脳はニューロンの細胞体が分布する灰白質の大脳皮質 Cerebral cortex と、神経線維が走行する白質の髄質 Cerebral Medulla、および深部に存在する灰白質の基底核 Basal nucleus からなる。

     大脳皮質は新皮質 Neocortex辺縁葉 Limbic lobe からなる。
     新皮質は爬虫類以降、ヒトを含む高等哺乳類で特に発達した。不規則な溝によって隔てられた盛り上がり(回 gyrus)が表面積を拡大し、大脳縦裂 Longitudinal cerebral fissure が左右の半球を隔てる。半球は前頭葉 Frontal lobe頭頂葉 Parietal lobe側頭葉 Temporal lobe後頭葉 Occipital lobe に分けられ、前頭葉・頭頂葉と側頭葉を隔てる外側溝の深部には Insula と呼ばれる皮質が他の脳葉とは独立して存在する。前頭葉と頭頂葉は中心溝 Central sulcus によって隔てられ、その前頭葉側である中心前回 Precentral gyrus)に脳幹や脊髄の運動ニューロンを支配する一次運動野 Primary motor area、頭頂葉側である中心後回 Postcentral gyrus)には体の各部位の一般感覚を司る一次体性感覚野 Primary somatosensory area がある。一次感覚野は他に、体性感覚野の下端から島にかけて味覚野、側頭葉上端に聴覚野 Auditory area、後頭葉後端に視覚野 Visual area、さらに大脳底面に嗅神経が投射する嗅球 Olfactory bulb がある。また様々な情報を統合する高次機能を担う連合野として、将来の予測や判断、創造性を司る前頭葉の前頭前野 Prefrontal area、発話に関わる左前頭葉のブローカ野 Broca's area(運動性言語中枢)、言語理解に関わる左側頭葉のウェルニッケ野 Wernicke's area(感覚性言語中枢)などが存在する。
     一方、古皮質とも呼ばれる辺縁葉は系統発生的に新皮質よりも古く、これらを中心とした辺縁系は動物としての本能的な行動に関わる。辺縁系は記憶や学習を司る海馬 Hippocampus や、不安や恐怖といった情動を司る扁桃体 Amygdala などの神経核から構成される。

     髄質には皮質と脳幹・脊髄を連絡する投射線維 Projection fibers、同側の大脳半球を連絡する連合線維 Association fibers、左右の大脳半球をつなぎ脳梁や前交連・後交連などをつくる交連線維 Commissural fibers がある。また左右に1対の側脳室 Lateral ventricle があり、尾側で間脳の第3脳室に移行する。延髄の錐体では運動神経線維が交叉する(錐体交叉 Decussation of pyramids, ただし一部は脊髄の白交連で交叉する)。大脳皮質から錐体を通って脊髄に達する随意運動の下行性伝導路は錐体路 Pyramidal tract と呼ばれる。
     髄質の深部には大脳基底核と呼ばれる灰白質があり、認知・動機づけ・報酬・情動・運動調節といった機能を司る様々な神経核(線条体、淡蒼球、扁桃体、黒質など)が含まれる。

    間脳
     間脳は視床 Thalamus および視床下部 Hypothalamus からなり、第3脳室 Third ventricle によって左右が隔てられる。視床は大脳皮質へ入力する全ての感覚情報(嗅覚を除く)を中継する。視床下部は自律神経および内分泌機能を制御し、摂食・睡眠・性行動・体温調節などを司る。第3脳室は吻側で大脳の側脳室、尾側で脳幹の中脳水道、第4脳室へと通じる。

    小脳
     小脳は正中付近の虫部 Vermis と左右の半球からなり、腹側にある脳幹とは小脳脚 Cerebellar peduncle によって線維連絡する。皮質にはニューロンが層構造をなして分布し(浅層から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層)、平行な溝が表面積を広げる。深部には小脳核 Cerebellar nucleus があり、皮質と連絡する。
     虫部には筋・腱・関節からの深部感覚および内耳からの平衡感覚が入り、半球には大脳皮質からの運動指令が橋核を経由して入る。小脳はこれらの感覚・運動情報を統合し、協調的な運動を制御する。

    脳幹
     脳幹は吻側から中脳 Midbrain Pons延髄 Medulla oblongata に分けられる。橋・延髄の背側には第4脳室 Fourth ventricle があり、吻側で中脳水道を介して間脳の第3脳室、尾側で脊髄の中心管へと通じる。
     脳幹の中心部にある被蓋 Tegmentum には、疎らな細胞体と網目状の神経線維からなる網様体 Reticular formation が分布する。網様体は呼吸・循環の中枢であり、個体の生命維持に不可欠な機能を担う。被蓋の腹側は延髄で錐体、中脳では大脳脚 Cerebral crus と呼ばれる神経線維の走行が見られる一方、橋では橋核 Pontine nuclei と呼ばれる神経核が存在する。橋核は大脳皮質から小脳半球への運動指令を中継する。橋の被蓋の背側には小脳があり、中脳の被蓋の背側には視覚や体性感覚などからの情報が入力される上丘 Superior colliculus と、聴覚情報を処理する下丘 Inferior colliculus がある。中脳の被蓋と大脳脚の間には運動調節に関わる黒質 Substantia nigra がある。





    ■ 髄膜と脳脊髄液

    髄膜
     脳と脊髄は髄膜 Meninx に覆われる。髄膜は脳表面を覆う軟膜 Pia mater、その外側のクモ膜 Arachnoid mater、最外層の硬膜 Dura mater からなる。硬膜は脳で内葉と外葉(頭蓋骨の骨膜に相当する)に分かれ、その間に硬膜静脈洞をつくる。クモ膜と軟膜の間(クモ膜下腔)には脳脊髄液が循環する。

    脳脊髄液
     脳脊髄液 Cerebrospinal fluid は脳室の脈絡叢 Choroid plexus から分泌される。そうして神経組織において物質交換を行い、また第4脳室の正中口(マジャンディ孔)および左右の外側口(ルシュカ孔)からクモ膜下腔に出てこれを満たすことによって外力の衝撃から脳・脊髄を保護し、上矢状静脈洞に突出したクモ膜顆粒から静脈血中に排出される。なお脳脊髄液の組成は血清にほぼ等しいが、タンパク質をほとんど含まない。これは血液脳関門によって神経組織への血漿成分の流入が制限されるためで、そのために脳・脊髄には血中の有害物質が及びにくい。





    ■ 脳の血管

    内頚動脈と椎骨動脈
     脳を栄養する血管は内頚動脈 Internal carotid artery椎骨動脈 Vertebral artery に由来する。内頚動脈は頚部を上行すると、頭蓋底に開く頚動脈管を通って頭蓋腔に入る。その後は前方に向かって水平に走り、海綿静脈洞(※1)の中を通って視神経管の外側、前床突起(蝶形骨小翼縁の内側端)の内側で硬膜を貫きクモ膜下腔に達する。同動脈はさらに視神経の下で今度は上内側にUターンして後方に向かい(頚動脈サイフォン)、そこで前大脳動脈 Anterior cerebral artery中大脳動脈 Middle cerebral artery に分かれる。このような頚動脈の入り組んだ走行は心臓の拍出による直接的な衝撃を和らげ、脳の血管の保護に役立っている。

     一方、頚椎の横突孔を通って上行してきた椎骨動脈は大後頭孔から頭蓋腔に入り、そのまま硬膜とクモ膜を貫く。同動脈は硬膜、脊髄、延髄、小脳後下部などに枝を出しながら(※2)クモ膜下腔を脳底に沿って上行すると、橋の下縁で左右合流して一本の脳底動脈 Basilar artery となる。脳底動脈は延髄、橋、小脳前下部・上部あるいは内耳などに枝を出しながら(※3)橋の腹側を上行し、その前縁で左右の後大脳動脈 Posterior cerebral artery に分かれる。

    ※1 トルコ鞍の両側で上眼窩裂から側頭骨錐体に及ぶ硬膜静脈洞
    ※2 硬膜枝、後脊髄動脈、前脊髄動脈、正中延髄枝、後下小脳動脈
    ※3 前下小脳動脈、迷路動脈、橋枝、上小脳動脈

    ウィリスの動脈輪
     内頚動脈からの前・中大脳動脈と椎骨動脈からの後大脳動脈は脳底で連絡し、ウィリスの動脈輪 Circle of Willis をつくっている。すなわち一本の前交通動脈が左右の前大脳動脈をつなぎ、さらに後交通動脈が椎骨動脈と後大脳動脈をつなぐことによって、前交通動脈―前大脳動脈―中大脳動脈―内頚動脈―後交通動脈―後大脳動脈がひとつの輪となって視神経交叉・下垂体・乳頭体を取り囲む。この血管のロータリーは、例えば片側の内頚動脈が閉塞した場合に同側の脳への血液供給を対側から補おうとする場合など、脳の血流を維持するための仕組みと考えられるが、実際には前交通動脈や後交通動脈が細過ぎるため必ずしも十分な血液供給が得られるものではない。

    前・中・後大脳動脈
     前大脳動脈は大脳縦裂を脳梁の上面に沿って後方へ向かいながら大脳半球の内側面の大部分と外側面上部の皮質に分布し、また脳底から進入した枝(ホイブネルの反回動脈)が大脳基底核の一部を栄養する。中大脳動脈は大脳の外側溝から後上方へ枝を広げ、大脳半球の外側面の大部分の皮質に分布する。後大脳動脈は大脳脚の腹側から大脳の側頭葉内側面・下面と後頭葉の大部分に分布し、また内部に進入した枝が視床や大脳基底核の一部を栄養する。

    浅大脳静脈と深大脳静脈
     大脳の静脈は動脈と伴行せず、大脳半球の外側面にある浅大脳静脈と内側面にある深大脳静脈に大別される。いずれも硬膜静脈洞(>内頚静脈)に注ぐ。





    ■ 脳神経

     脳から出る12対の末梢神経は脳神経 Cranial nerves と呼ばれ、大部分は脳幹から起こり吻側からI~XIIの番号(慣例としてローマ数字)が割り当てられている。各脳神経を下の表に示す。


    脳神経の名称 特徴
    嗅神経 [I]
    Olfactory nerve
    嗅覚の伝導路。嗅上皮から篩板を貫き嗅球に至る嗅細胞の軸索の束
    視神経 [II]
    Optic nerve
    視覚の伝導路。網膜に発し、視神経管を通り頭蓋内で左右それぞれ半分の線維(右眼の右視野, 左眼の左視野の視覚情報)を交叉させる(視交叉 Optic chiasma)。視覚情報はその後、視索を通じて視床の外側膝状体に入り、視放線によって後頭葉の視覚野に達する
    動眼神経 [III]
    Oculomotor nerve
    眼球の運動を支配する。中脳の大脳脚から出て上眼窩裂を通り、大部分の外眼筋に至る。また副交感性の線維が毛様体神経節に入り、瞳孔を収縮させる瞳孔括約筋と、水晶体を厚くする毛様体筋を支配する
    滑車神経 [IV]
    Trochlear nerve
    上斜筋(外眼筋)を支配する、最も細い脳神経。中脳から出て上眼窩裂を通る
    三叉神経 [V]
    Trigeminal nerve
    頭部の体性感覚および下顎の運動を支配する最も太い脳神経。太い感覚根と細い運動根が橋から出る。感覚根は三叉神経節を経て、上眼窩裂を通る眼神経 [V1]、正円孔を通る上顎神経 [V2]、運動根とともに卵円孔を通る下顎神経 [V3] に分かれる
    外転神経 [VI]
    Abducens nerve
    外側直筋(外眼筋)を支配する。橋と延髄の境界部から出て上眼窩裂を通る
    顔面神経 [VII]
    Facial nerve
    表情筋を支配する。橋と延髄の境界部(外転神経 [VI] より外側)から出て内耳道に入り、顔面神経管を通って茎乳突孔へ出る。この間に、涙腺や鼻腔・上顎洞・口蓋の外分泌腺を支配する副交感性線維を含む大錐体神経や、味覚の特殊感覚線維と顎下腺を支配する副交感性線維を含む鼓索神経などを分枝する
    内耳神経 [VIII]
    Vestibulocochlear nerve
    聴覚・平衡感覚の伝導路。内耳の蝸牛(聴覚器)に発する蝸牛神経と、前庭・半規管(平衡感覚器)に発する前庭神経がともに内耳道から入り、顔面神経 [VII] の外側に並んで脳に入る。蝸牛神経は蝸牛神経核、下丘、視床の内側膝状体を介して側頭葉の聴覚野に達し、前庭神経は前庭神経核を介して脊髄・小脳に至る
    舌咽神経 [IX]
    Glossopharyngeal nerve
    舌後方1/3の体性感覚・味覚、および耳下腺を支配する。延髄から出て頚静脈孔を通る。この時、耳下腺を支配する副交感性線維(小錐体神経)を含む鼓室神経を分枝する
    迷走神経 [X]
    Vagus nerve
    主として胸腹部の内臓を支配する。舌咽神経 [IX] の下から出て頚静脈孔を通り、頭頚部、胸部内臓に枝を出しながら腹部内臓に至る
    副神経 [XI]
    Accessory nerve
    胸鎖乳突筋僧帽筋を支配する。頚髄(C1-5)から脊髄根として出て、上行して大後頭孔から一旦頭蓋内に入り、頚静脈孔を通って頭蓋の外に出る。一方、延髄下端から出る延髄根は上述の脊髄根とともに頚静脈孔に入るが、そこで迷走神経に合流してその一部となる
    舌下神経 [XII]
    Hypoglossal nerve
    舌の運動を支配する。延髄から出て舌下神経管を通る