■ 腹部の解剖

前腹壁
(1) 前腹壁をなす筋群を同定する。外腹斜筋と内腹斜筋はそれぞれ筋腹で切断して内側の断端を翻し、腱膜を中央付近で切断して取り除く。腹直筋は横断して上下に翻す。腹直筋鞘後葉の下縁に弓状線を認める(難)
(2) 鼡径管の内容物を確認する
腹腔
(1) 前腹壁を開いて内壁のヒダおよび索状物を確認後、腹部内臓を原位置で観察する。また肝臓を持ち上げて網嚢を確認する
(2) 空腸からS状結腸までを取り出す。まず十二指腸空腸曲にて約2 cm離れた2箇所を結紮してその間を切断する。同様に、S状結腸下端も切断する。腸壁に沿って腸間膜を切り取っていく(腸間膜をもたない上行結腸と下行結腸は後腹壁を覆う壁側腹膜を切り裂いて掘り起こす)
(3) 肝・胃・十二指腸・膵臓・脾臓を一塊として取り出す。まず腹腔動脈の枝(左胃動脈, 総肝動脈, 脾動脈)を根元で切断する。肝臓の間膜(肝鎌状間膜, 肝冠状間膜, 左右の三角間膜)を切断し、下大静脈の肝臓に接する部分を残し上下を切断する。さらに胃の噴門の直上を結紮して切断。上腸間膜動脈の根元を切断し、十二指腸と膵臓を後腹膜から脾臓とともに掘り起こす
横隔膜, 後腹膜, 腹部内蔵
(1) 横隔膜を観察。胸部から胸管を追って大動脈裂孔を切開し、乳び槽を剖出する。左右の横隔神経が食道裂孔と大静脈孔を通ることを確認し、食道裂孔を通る迷走神経を剖出する
(2) 腎動静脈、副腎動静脈および尿管を切断し、腎臓と副腎を取り出す。この時、副腎静脈および精巣 / 卵巣静脈の左右差に注意する
(3) 取り出した各臓器は外観・表面を観察した後、内部の観察に移る
後腹壁
(1) 後腹壁をつくる筋群と腰神経叢を同定する。大腰筋と小腰筋(56%で欠ける)を起始部で切断し、腰動静脈を確認。腸骨窩で総腸骨動静脈の枝を追う。これらを終えたら遺体を背臥位にし、背部の解剖に移る


演習問題

問1. 腹壁に見られる構造について正しいのはどれか。

 ① 鼡径菅は女性では卵管を通す
 ② 正中臍索は臍静脈の遺残である
 ③ 内側臍ヒダは下腹壁動静脈を容れる
 ④ 腹直筋下部は腹直筋鞘の前葉を欠く
 ⑤ 門脈圧亢進症において、腹壁の静脈は大静脈への側副路となる

解答を見る
  • ①―鼡径菅 Inguinal canal は女性では子宮円索を通す。子宮円索は卵巣・子宮と大陰唇をつなぐヒモで、これに相当する男性の精巣導体は後腹膜にできた精巣を陰嚢底部につなぐ。ただし精巣導体は中腎の退化とともに短くなり、精管を伴った精巣を鼡径菅を経由して陰嚢に降ろすため、男性では精索が鼡径菅を通る。
    ②―正中臍索は尿膜管の遺残である。臍静脈の遺残は肝円索として肝鎌状間膜の下縁をつくる。
    ③―内側臍ヒダに見られるのは臍動脈索(閉塞した臍動脈)である。下腹壁動静脈は外側臍ヒダの中を走行する。
    ④―腹直筋下部では腹直筋鞘の後葉が失われる。腹直筋を丁寧に取り除くと腹直筋鞘後葉の下縁と深層の横筋筋膜との境界が弓状線として観察できる。
    ⑤―門脈や肝静脈の狭窄・閉塞あるいは肝硬変などによって門脈血流に通過障害が生じていると、前腹壁の静脈(浅腹壁静脈・胸腹壁静脈・臍傍静脈など)が大静脈系への側副路として使われる。特に怒張した臍傍静脈が体表から見える様子を指して、メデューサの頭 Caput Medusae と言う。



    問2. 腹部・骨盤部の脈管について正しいのはどれか。

     ① 中直腸静脈は門脈系に注ぐ
     ② 左腎静脈は右腎静脈より長い
     ③ 精巣動脈は下腸間膜動脈から起こる
     ④ 右総腸骨動脈は下大静脈の深層を通る
     ⑤ 上腸間膜動脈は主に前腸に由来する臓器に分布する

    解答を見る
  • ①―中直腸静脈は内腸骨静脈に注ぎ、門脈・肝臓を経由せずに下大静脈 Inferior vena cava に注ぐ。この解剖は直腸がんの転移や坐薬の薬物動態を考える上で重要である。
    ②―(下大静脈が正中のやや右を上行するため)左腎静脈は右腎静脈より長く、腹大動脈の浅層を上腸間膜動脈の下の高さで横切る。
    ③―精巣動脈・卵巣動脈は腹大動脈から起こる。
    ④―右総腸骨動脈は下大静脈の浅層を通る。
    ⑤―腹大動脈 Abdominal aorta から起こる無対性の枝である腹腔動脈 Celiac trunk、上腸間膜動脈 Superior mesenteric artery、下腸間膜動脈 Inferior mesenteric artery はそれぞれ前腸・中腸・後腸に由来する臓器に分布する。



    問3. 横隔膜の食道裂孔を通るのはどれか。2つ選べ。

     ① Esophagus
     ② Inferior vena cava
     ③ Azygos vein
     ④ Thoracic duct
     ⑤ Vagus nerve

    解答を見る
  • ①, ⑤
  • 横隔膜 Diaphragm には3つの孔・裂孔、すなわち第12胸椎の椎体の前の大動脈裂孔、その左前の食道裂孔、腱中心で正中よりやや右の大静脈孔がある。大動脈裂孔には大動脈・奇静脈・胸管、食道裂孔には食道・左胃動脈の枝・迷走神経・左横隔神経、大静脈孔には下大静脈・右横隔神経がそれぞれ通る。また食道裂孔はヘルニアの好発部位でもある(食道裂孔ヘルニア)。



    問4. 消化管の構造について正しいのはどれか。

     ① 胃の噴門には括約筋が見られる
     ② 肝十二指腸間膜は大網をつくる
     ③ パイエル板は空腸に多く見られる
     ④ 結腸ヒモは縦走筋である
     ⑤ 横行結腸は後腹膜器官である

    解答を見る
  • ①―胃の噴門 Cardia には括約筋がない。胃の内容物が逆流しない理由のひとつとして(噴門と胃底の間にある)噴門切痕が胃の拡張に伴って押されることが考えらるが、小児では胃底の発達が悪く噴門切痕の角度が水平に近いため嘔吐しやすい。
    ②―肝十二指腸間膜は肝胃間膜とともに小網をつくり、肝門へ向かう総胆管・固有肝動脈・門脈を含んでいる。大網は胃の大弯から垂れ下がる胃結腸間膜が反転して上行し、横行結腸間膜と合わさって膵臓を覆う後腹膜に着いたもので、栄養状態によっては大量の脂肪を含む。
    ③―回腸 Ileum(特に下部)にはパイエル板と呼ばれるリンパ小節の集合体が多数分布し、肉眼でも観察できる。
    ④―結腸ヒモは縦走筋からなるヒモで、結腸に特有の構造である。間膜ヒモ・大網ヒモ・自由ヒモがあり、これらを近位へ辿ると外科的に虫垂 Appendix を求めることができる。
    ⑤―横行結腸 Transverse colon は横行結腸間膜によって後腹壁につながっている。大腸ではS状結腸と直腸上部、また虫垂にも間膜が見られる。上行・下行結腸 Ascending / Descending colon は間膜をもたず、後腹壁に埋まっている。



    問5. 肝臓・胆路系について正しいのはどれか。

     ① 肝静脈は肝門を通る
     ② 胆嚢動脈はカロー三角を通る
     ③ 胆嚢炎では左肩部に関連痛を生じる
     ④ 胆管と膵管は十二指腸水平部に開口する
     ⑤ カントリー線は鎌状間膜の下縁に沿って引かれたものである

    解答を見る
  • ①―左・中・右肝静脈は肝臓の後上部から出て下大静脈に注ぐ。肝門には後方から門脈 Hepatic portal vein (V)・固有肝動脈 Hepatic artery proper (A)・総胆管 Bile duct (D) が通る。
    ②―カロー三角とは胆嚢管・総肝管・肝臓下面で囲まれる領域を指す。右肝動脈はこの部で胆嚢動脈を出し、これが総胆管と胆嚢管の後面を走行し胆嚢に至る。
    ③―胆嚢の炎症は横隔膜下面から右横隔神経(C3-5)を介して伝わるため、関連痛は同神経のデルマトームである右肩部に生じる。
    ④―胆管と膵管の開口部はファーター乳頭と呼ばれ、十二指腸下行部に見られる。
    ⑤―肝鎌状間膜は肝臓を形態学的に右葉と左葉に分ける。一方、カントリー線とは肝臓の臓側面で胆嚢窩と下大静脈を結ぶ仮想の線で、門脈・固有肝動脈・胆管の分布に従って肝臓を機能的右葉と機能的左葉に分けている。



    問6. 腰神経叢の枝でないのはどれか。

     ① 大腿神経
     ② 閉鎖神経
     ③ 陰部大腿神経
     ④ 後大腿皮神経
     ⑤ 外側大腿皮神経

    解答を見る
  • 腰神経叢はT12-L4前枝からなり、腸骨下腹神経・腸骨鼡径神経・陰部大腿神経・外側大腿皮神経・大腿神経・閉鎖神経を出す。後大腿皮神経は仙骨神経叢の枝で、梨状筋下孔から出て主に大腿後面の皮膚に分布する。





    ■ 骨盤部の解剖

    会陰部, 骨盤腔
    (1) 会陰部の皮膚を剥離して脂肪を取り除き、外肛門括約筋と浅会陰横筋を同定する。直腸三角で骨盤隔膜をつくる肛門挙筋を剖出。また坐骨直腸窩にて陰部神経と内陰部動脈を見つけ、それらの枝を追う
    (2) 尿生殖三角で尿生殖隔膜をつくる深会陰横筋を剖出する。外陰部を解剖する
    (3) 遺体を仰臥位にし、下半身を第3・4腰椎間で切り離す。さらに骨盤内臓器を左右どちらかに寄せておき、腰椎・仙骨・恥骨結合の中央をノコギリで切断して骨盤腔を開放する。内壁で内腸骨動脈の枝、閉鎖神経、仙骨神経叢などを観察する
    骨盤内臓, 股関節
    (1) 直腸を含めた骨盤内蔵を一塊として取り出す。直腸は男性では膀胱・前立腺から、女性では子宮・膣から切り離し、後壁を開いて水洗して観察する
    (2) すでに取り出してある腎臓と、尿管、膀胱、尿道を観察する。さらに男性では精巣と精管、女性では子宮と卵巣、卵管を観察する
    (3) 股関節を観察する




    腹壁

    ■ 腹壁の筋

     腹壁の筋は腹部内臓を保護し、これらの位置を保持する。収縮すると弛緩した横隔膜を胸腔へ押し上げ、呼気、咳、嘔吐を助ける。また腹腔内圧の上昇により出産、排尿、排便などにも関わる。これらの起始・停止、神経支配、作用を下の表に示す。
     なお、後腹壁をつくる筋群として小腰筋(約50%で欠損)、大腰筋、腸骨筋、腰方形筋がある。これらのうち大腰筋および腸骨筋は腸腰筋となって大腿骨の小転子に停止し股関節に作用することから、大腿の筋として上肢・下肢>大腿の筋に示した。


    筋の名称 起始・停止 神経支配 作用
    外腹斜筋 起始: 第5~12肋骨外面

    停止: 腸骨稜外唇, 白線に停止する腱膜
    T7-12前枝 腹部内容の保持, 体幹の屈曲
    内腹斜筋 起始: 胸腰筋膜, 腸骨稜, 鼡径靭帯(外側2/3)

    停止: 第10~12肋骨下縁, 白線に停止する腱膜, 恥骨稜, 恥骨筋線
    T7-L1前枝 腹部内容の保持, 体幹の屈曲
    腹横筋 起始: 胸腰筋膜, 腸骨稜内唇, 鼡径靭帯(外側1/3), 第7-12肋軟骨

    停止: 白線に停止する腱膜, 恥骨稜, 恥骨筋線
    T7-L1前枝 腹部内容の保持
    腹直筋 起始: 恥骨稜, 恥骨結節, 恥骨結合

    停止: 第5~7肋軟骨, 剣状突起
    T7-12前枝 腹部内容の保持, 脊柱の屈曲, 腹壁の緊張
    錐体筋 起始: 恥骨・恥骨結節の前面

    停止: 白線
    T12前枝 白線の緊張




    消化管とその付属器官

    ■ 胃

     工事中





    ■ 小腸

     工事中





    ■ 大腸

     工事中





    ■ 肝・胆路

     肝臓 Liver は1000~1500 g(体重の約50分の1)の巨大な腹腔内臓器で大部分が右上腹部にあり、上面は横隔膜、底面は右腹部内蔵と接してせり上がりながら左季肋部に至る。肝臓表面は横隔膜に密着した小領域(無漿膜野)を除き全体を臓側腹膜に覆われ、いくつかの間膜によって前腹壁(肝鎌状間膜)、胃(肝胃間膜)、十二指腸(肝十二指腸間膜)、横隔膜(冠状間膜と左右の三角間膜)に繋がる。底面中央の肝門 Porta hepatis からは固有肝動脈 Hepatic artery proper門脈 Hepatic portal vein肝管 Hepatic duct の三つ組みが出入りする。後面上部から出る右・中間・左肝静脈はそれぞれ下大静脈に注ぐ。

     肝臓は鎌状間膜によって隔てられた2枚の肝葉、右葉 Right Hepatic lobe左葉 Left Hepatic lobe からなる。右葉は底面(臓側面)で肝門の前方に方形葉 Quadrate lobe、後方に尾状葉 Caudate lobe をもつ。また右葉と左葉は底面では肝円索裂および静脈管裂によって隔てられているが、このような解剖学的区分は右葉と左葉を脈管や胆管の分布に基づいて胆嚢窩と下大静脈を結ぶ仮想の線(カントリー線 Cantlie's line)で分ける臨床上の区分とは必ずしも一致しない(すなわち解剖学的には右葉に含まれる方形葉と尾状葉は、臨床では左葉に属することになる)。例えば肝臓がんの外科手術に際しては動静脈、門脈および胆管の分布に基づいて肝臓をSegment 1-9に分け(クイノーの肝区域)、病巣がこれらのどの区域を侵しているかによって切除部位を決定する。

     肝臓の主な役割は代謝と解毒、そして老廃物の排泄である。門脈を介して運ばれてきた食物の栄養素や薬物あるいは毒物を分解・貯蔵し、その老廃物を胆汁 Bile として肝管を介して排泄する。右葉・左葉から出た左右の肝管は合流して総肝管 Common hepatic duct となって下行し、さらに胆嚢 Gallbladder / Cholecyst(胆汁を蓄え濃縮する洋ナシのような形をした嚢状の器官)からの胆嚢管 Cystic duct と合流して総胆管 Common bile duct となって十二指腸後方を下行し、膵管と合流するとすぐに十二指腸下行部、ファーター乳頭 Papilla of Vater(大十二指腸乳頭)に開口する。胆汁は乳化剤として脂肪の消化・吸収を助ける。





    ■ 膵臓

     工事中





    骨盤

    ■ 骨盤

     骨盤 Pelvis は左右の寛骨 Coxal bone(※1)と、仙骨 Sacrum および尾骨 Coccyx からなり、仙骨の前端(岬角 Promontory)から腸骨内面の骨稜(弓状線 Arcuate line)を経て恥骨結合 Pubic symphysis の上縁に至る分界線が上部の大骨盤 Greater pelvis と下部の小骨盤 Lesser pelvis を境している。大骨盤は腹腔下部をつくる一方、小骨盤は骨盤部をつくり内部の骨盤腔 Pelvic cavity に直腸・子宮・膀胱といったいわゆる骨盤内臓器を容れる。小骨盤の上方は骨盤上口、下方は骨盤下口となって開く。

     大坐骨切痕と仙棘靱帯(※2)に囲まれてできる孔を大坐骨孔 Greater sciatic foramen、小坐骨切痕と仙棘靱帯、仙結節靱帯(※3)に囲まれてできる孔を小坐骨孔 Lesser sciatic foramen と呼ぶ。大坐骨孔はこれを横切る梨状筋によって梨状筋上孔梨状筋下孔に分けられ、梨状筋上孔は上殿動静脈と上殿神経、梨状筋下孔は下殿動静脈、内陰部動静脈、下殿神経、坐骨神経、後大腿皮神経、陰部神経を臀部へと通す。

     骨盤の形態には性差があり、男性の骨盤は女性と比較して以下の点で異なる。

     ・ 岬角(仙骨の前端)がより突出している
     ・ 坐骨棘(坐骨後縁の突出部)がより突出している
     ・ 恥骨下角(左右の恥骨下枝によってつくられる角度)がより狭い

     女性の骨盤は概して、分娩に適応した形態をとるとされる。

    ※1 腸骨 Ilium坐骨 Ischium恥骨 Pubis が小児期に癒合してできる
    ※2 仙骨の外側縁下部に発し、坐骨棘に着く
    ※3 仙骨・尾骨の外側縁および上後腸骨棘に発し、坐骨結節に着く





    腎・尿路

    ■ 腎臓

     腎臓 Kidney は尿を産生する後腹膜器官で、左右一対あってソラマメのような形をしている。大きさはこぶし大で左腎の重さは約150 g、右腎はそれより10 g程度軽い。仰臥位で第12胸椎から第3腰椎の高さにあるが、(肝臓があるため)右腎は左腎よりやや低い。また左腎は右腎よりもやや細長い。上前内端で接する副腎 Adrenal gland とともにゲロタ筋膜(腎筋膜)に覆われ、副腎とは少量の脂肪組織によって隔てられる。

     腎臓の実質は浅層の腎皮質 Renal cortex と深層の腎髄質 Renal medulla からなる。腎皮質の延長(腎柱)は深部に入り込み、腎髄質を不連続な三角形の領域(腎錐体)に分ける。深部に向いた腎錐体の頂点(腎乳頭)は尿を受け取る小腎杯に囲まれる。数個の小腎杯は融合して大腎杯となり、さらに2~3個の大腎杯が融合して漏斗状の構造、腎盂 Renal pelvis を形成する。腎盂は尿管の上端部にあたる。なお、腎臓内側縁は腎盂とともに脈管(腎動脈、腎静脈、リンパ管)および神経が出入りする腎門 Hilum of kidney となり、内部に切り込む腎洞に続く。

     尿管 Ureter は腎臓から膀胱へ尿を運ぶ筋性の管である。腎盂が腎門を通って下方に向かうにつれ細くなり、尿管へ移行する。その後、腹膜後隙内を大腰筋の内側面に沿って下行する。さらに骨盤上口では総腸骨動脈の遠位端(外腸骨動脈の起始部)を越えて骨盤腔に入り、膀胱に至る。この間、1) 腎盂尿管移行部、2) 骨盤上口、3) 膀胱への入口の計3か所で狭くなっている。





    ■ 膀胱

     膀胱 Urinary bladder は尿を一時的に蓄える骨盤内臓器で、膀胱尖、膀胱底、膀胱体からなる。最大容量は個人差が大きいが平均500 mL程度で、尿が貯まり内圧が高まると尿意を催す(初発尿意は150~200 mL)。

     膀胱体の上面はわずかにドーム状であるが、尿が充満すると上方へ膨張し腹部にまで達する。恥骨結合上縁に向く膀胱尖からは正中臍索と呼ばれる索状の結合組織(尿膜管の遺残)が前腹壁に沿って伸び、臍につながる。後下方にある膀胱底は逆三角形で、左右の尿管がそれぞれ上方の角に入り(尿管口)、下方の角は尿を排泄する尿道の起始部(内尿道口)となる。また膀胱底の内面は膀胱三角と称され、他の部位に見られるヒダ状とは異なる平坦な粘膜上皮が平滑筋層を覆う。膀胱体の下外側面は骨盤隔膜の肛門挙筋とこれに隣接する内閉鎖筋の間に保持され、最下部は尿道に向かって細くなる(膀胱頚)。内尿道口は膀胱三角の縦走筋が副交感神経の働きで収縮して内腔を漏斗状に広げることにより開き、交感神経の働きで弛緩すると膀胱頚の輪状の弾性線維がこれを閉じる(内尿道口を輪状に取り囲む内尿道括約筋の存在は明らかではない)。





    ■ 尿道

     尿道 Urethra は膀胱底から起こり会陰の外尿道口に終わる。顕著な性差があり、女性(約4 cm)よりも男性(15~20 cm)で長い。

     男性の尿道は前立腺に囲まれた前立腺部(約3 cm)、深会陰隙および会陰膜を通過する隔膜部(約1 cm)、尿道海綿体に囲まれた海綿体部(10~15 cm)に分けられる。男性の尿路と生殖路は前立腺部で合流する。前立腺部における尿道内腔の後壁には縦方向のヒダ(尿道稜)があり、その両側の溝(前立腺洞)に前立腺の導管が多数開口する。また尿道稜の中ほどにある膨らみ(精丘)の中央に盲端に終わる小さな嚢(前立腺小室)があり、その両側に射精管が開口する。隔膜部では男女ともに横紋筋である外尿道括約筋が尿道を取り囲む。海綿体部は陰茎の勃起組織である尿道海綿体に囲まれる。尿道は陰茎基部で広くなり(球部)、ここに深会陰隙にある尿道球腺(カウパー腺)の導管が開口する。外尿道口は陰茎の先端に矢状方向の切れ目として開く。外尿道口が開く直前もまた内腔が広がっている(舟状窩)。なお男性の尿道は通常、海綿体部で二度の湾曲を経る。すなわち陰茎根へ入ると前方へ屈曲し、陰茎が弛緩している時は陰茎根から陰茎体へ移行する時に下方へ屈曲する。

     女性の尿道は起立位でほぼ垂直に下行して深会陰隙および会陰膜を通過し、膣前庭の膣口より前方に開口する。外尿道口の外側縁には男性の前立腺に相当する尿道傍腺(スキーン腺)の導管が開口する。